江戸時代にその起源を辿ることができる寿司屋さんですが、現在のように
ナマの素材を食材に使用するようになったのは比較的最近のこととされています。
それというのも江戸時代にあっては、衛生観念や消毒液なども開発されているわけもなく、
経験則上酢やわさびに殺菌効果がもっていることが知られていたおかげで
それらの材料をうまく使いこなし、江戸前ならではの仕事を加えたネタを
客に握っていたのが、江戸前寿司の基本的なスタイルです。
冷蔵技術などは皆目存在していないので、エビは塩茹でを済ませていく、
マグロは醤油とみりんを加えて煮きったものに漬け込んでおき「ヅケ」にする、
こはだは綺麗におろしたら酢につけるなどの江戸前ならでは仕事を加えたネタが、屋台には並びます。
こんなたたずまいのお店に、雪駄の音を響かせながら風呂上りに小腹が空いたので
風呂屋の前に屋台を構える寿司屋に立ち寄って、2-3貫寿司をつまんで、家路に着くというわけです。
現代の寿司屋に屋台を思わせる意匠のカウンターが多いのは、このような江戸前文化を
引き継いでいる側面が強いといって間違いないでしょう。
職人が仕事を加えたネタを、軽くつまむファーストフード感覚で、
江戸では寿司が認識されていたことを物語るエピソードです。
のれんが汚い店は美味しい店!
ところで、屋台に入って寿司を2-3貫つまんだところで、さらに引き続いて
召し上がろうというときに、困った問題が出てきます。
寿司をつまんだ指先にはシャリが数個付着しています。
そのまま次の寿司をつまむとシャリの残りが着いてしまうという問題に直面することに。
屋台なので満足に手も洗えないのは当然です。
そこで職人達が頭を悩ませて登場したのが、ガリというわけです。
ガリといえばどの寿司屋さんでも供されているショウガの甘酢漬けのことです。
現在でも握りずしの横に添えられているので、江戸時代にガリがおしぼりの代わりに
使用されていたことのなごりなのです。
ガリで指をぬらしながら、寿司をつまめば指先にシャリの粒が残ることもありません。
指にシャリが付かないように考えた江戸時代の先達の知恵だったというわけです。
ところで寿司に欠かせない醤油(むらさき)はどのように供されていたのか。
小皿なんて当時は揃っているわけでもありません。
だからといって醤油を塗らないわけにはいかないのでハケでひと塗りが基本でした。
そして寿司をつまんだ指先は何らかの形で綺麗にせざるを得ないわけです。
そこで当時の客はのれんをふきんがわりにしていました。
汚いのれんを受けづくことは名店を次代に承継する意味を持っていたわけです。
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